工事ごとの進捗や原価を、現場は手書きの台帳やノートで、事務所はExcelで、それぞれ別々に管理していないでしょうか。現場からの報告を事務所が転記し直す手間がかかるうえ、どちらの数字が最新なのか分からなくなり、経営者や現場監督から「今月の粗利はどうなっている」と聞かれてすぐ答えられない——こうした状況は、複数の工事を並行して抱える建設業の担当者にとって珍しくありません。この記事では、kintoneで工事台帳アプリを作る具体的な手順と、台帳ならではの運用ポイントを解説します。
工事台帳を紙・Excelで管理する限界
紙の台帳やExcelでの工事管理は、1件の工事を追う分には困りません。問題は工事の数が増え、複数の現場が同時に動き出したときに表面化します。現場監督がその日の進捗を手書きのメモやLINEで事務所に伝え、事務所側が別々のExcelファイルにまとめ直す。ファイルは現場ごと・担当者ごとにバラバラで、どれが最新版か分からなくなる。原価の実行予算・発注額・請求額はそれぞれ別シートで管理され、粗利を出すには手計算が必要——このような情景は、工事台帳をExcelで運用している現場でよく見られます。
建設業向けkintone活用事例では、工事情報を一元管理することで現場と事務所の情報ズレを減らすアプローチを紹介しています。kintoneであれば、工事ごとの情報を1つのアプリに集約し、事務所にいながら現場の最新状況を確認できます。次の章では、その基本フィールド構成から見ていきます。

工事台帳アプリの基本フィールド構成(工事名・工期・原価・協力会社・進捗率)
工事台帳アプリの土台になるのは、次のようなフィールド構成です。工事名・発注元・工期(開始日/終了日)・現場監督といった基本情報に加えて、実行予算・発注額・請求額といった原価情報、協力会社、そして工事の状況を表す選択肢を用意します。

ポイントは「粗利見込」のような集計フィールドを最初から用意しておくことです。請求額から発注額を引く計算式を1つ組んでおくだけで、工事ごとの粗利が自動で表示されるようになり、月末に電卓を叩く手間がなくなります。金額を扱う数値フィールドは、全体の桁数や小数部の桁数、端数の丸め方(切り上げ・切り捨てなど)を設定でき、あとから変更すると次回のレコード更新時に、それまで登録されていた金額の表示や計算結果もその設定に合わせて更新されます。細かい部分ですが、金額の見え方を後から統一したい場合に覚えておくと役立ちます。
kintoneアプリの作り方を3ステップで解説では、アプリ作成の基本流れが紹介されており、工事台帳に限らず様々なアプリに応用できます。
なお、Excelの列見出しに「【原価】」のような記号が入っていても、それをそのままフィールド名として使うこと自体は問題ありません。kintoneは表示上のフィールド名と、内部で使うフィールドコードを分けて管理しており、記号を含む名前を付けた場合はフィールドコード側だけが安全な文字列に自動変換されます。
フィールドを用意したら、実際に工事を1件登録してみましょう。

原価・協力会社・進捗率を入力すると、粗利見込が自動計算された状態で1件の工事レコードが完成します。この形を工事の数だけ積み上げていくのが、kintone工事台帳の基本の使い方です。
協力会社との情報共有をどう設計するか
工事台帳を作ったあと、多くの担当者がつまずくのが「協力会社とどこまで情報を共有するか」です。kintoneには2つの選択肢があります。
1つ目は、ゲストスペースを使う方法です。ゲストスペースは、kintoneの契約ユーザーでない相手をゲストとして招待できる仕組みで、招待されたゲストはそのスペースと配置されたアプリだけにアクセスできます。参加人数の上限はなく、協力会社の担当者が複数人いても招待できますが、モバイルアプリからは利用できずWebブラウザーからのアクセスのみという制約があります。また、一度作ったスペースは所属先の変更や作成後の移動ができないため、どの工事のスペースに誰を招待するかは最初にある程度決めておいた方がよいでしょう。
2つ目は、協力会社の基本情報(会社名・連絡先・単価など)を別アプリの「協力会社マスタ」として管理し、工事台帳側からルックアップフィールドで参照する方法です。ルックアップは、マスタアプリの中からキーとなる項目(会社名など)を指定してレコードを引っ張ってくる仕組みで、他のフィールドの値もまとめてコピーできます。
ここで実際によくあるつまずきが、マスタ側のキー項目に重複した値があるケースです。協力会社マスタで同じ会社名のレコードが2件以上あると、どちらのレコードを参照すればよいか特定できず、ファイル読み込みでの一括更新ができなくなります。マスタを作る際は、会社名だけでなく取引先コードのような一意になる項目をキーに使うと安全です。kintone CSV読み込みエラーを事前に防ぐ方法でも、マスタ設計時のキー項目の選択が重要なポイントとして解説されています。また、ルックアップで取得した値は、マスタ側を後から変更しても自動では追従しません。単価改定があった場合は、工事台帳側で改めて「取得」をクリックして上書きする必要がある点も覚えておきましょう。ここでつまずいたら、無料相談で画面を見ながら一緒に確認できます。
協力会社に見せたくない情報がある場合は、フィールド単位のアクセス権で調整できます。ユーザー・組織・グループ単位で閲覧や編集の可否を設定でき、権限のないフィールドは非表示になるか「アクセス権がありません」と表示されます。データ自体は削除されず保持されるので、原価や粗利見込のフィールドだけ自社担当者に限定し、工期や進捗状況だけを協力会社に見せる、といった設計が可能です。

原価・進捗の集計とグラフ化
工事が増えてくると、1件ずつレコードを開いて確認するのは非効率になります。一覧画面で現場ごとの進捗を並べて見られるようにしておきましょう。

実務でよくある運用が、「原価や進捗率が未入力の工事だけを洗い出したい」というものです。文字列(複数行)フィールドには空判定専用の条件がありますが、数値フィールドには「空である」という条件が用意されていません。この場合は「値を含む」条件に空文字を指定することで、未入力のレコードを絞り込めます。台帳の入力漏れをチェックする一覧を作る際に使える小技です。
進捗や原価の全体像をつかむには、グラフ機能も活用できます。登録した値やレコード数を、工事ごと・協力会社ごとといった項目で分類して集計でき、日付フィールドを使えば四半期単位での分類も可能です。年度のようにkintoneに標準で用意されていない単位で集計したい場合は、年度を算出する計算フィールドを別途用意し、それを分類する項目に指定します。なお、集計方法として画面上にどのような選択肢が表示されるかは、実際のグラフ設定画面を開いて確認しながら選ぶとよいでしょう。

進捗率を、承認や検査の進み具合を段階管理する「プロセス管理」のステータス(着工前・施工中・検査中・完工など)と連動させて自動計算したくなるかもしれませんが、計算フィールドの条件式からプロセス管理のステータスを直接参照できるかどうかは、公式ヘルプ上でも明確にされていません。現時点では、進捗率は現場からその都度入力する数値フィールドとして運用するほうが安全です。
原価の詳しい内訳や集計の考え方をさらに掘り下げたい場合は、工事原価の管理方法も参考になります。
また、フィールドは1アプリあたり500個まで登録できますが、100個を超えたあたりからレコード一覧や詳細画面の表示にわずかな遅延が出ることがあります。台帳の運用を続けるうちに項目を増やしていく場合は、本当に台帳に必要な項目かを都度見直すとよいでしょう。
pullie建設業パックという選択肢(テンプレートで最短スタート)
ここまでの手順は、フィールドの追加からグラフの設定まで、すべて自分の手で組み立てる前提で説明してきました。工事台帳に必要な項目や画面構成をゼロから設計するのは、思っている以上に時間がかかる作業です。特に、原価管理・協力会社管理・進捗管理を1つのアプリに無理なく収めるレイアウトは、何度か作り直すことになりがちです。
こうした手間を省きたい場合の選択肢として、建設業向けにあらかじめ工事台帳に必要な項目・レイアウトを用意した「建設業パック」(¥7,980)というアプリテンプレートもあります。BOOTHで販売しており、テンプレートを取り込んだあとに自社の呼び方や運用に合わせてフィールド名や選択肢を調整していく形で使えます。

自作するかテンプレートから始めるかは、社内にkintoneを触れる担当者がどれだけいるか、工事台帳にどこまで独自の項目を持たせたいかによって変わります。まずは本記事の基本フィールド構成で小さく作ってみて、運用しながら足りない部分をテンプレートや追加開発で補っていく、という進め方でも問題ありません。
まとめ
工事台帳をkintoneで作る際は、工事名・工期・原価・協力会社・進捗率という基本フィールドを押さえたうえで、協力会社との情報共有をゲストスペースかルックアップのどちらで設計するかを決めることが最初の分かれ道になります。原価や進捗の集計はグラフ機能で工事横断に見える化でき、未入力チェックなど細かな運用の工夫を積み重ねることで、現場と事務所の情報のズレを減らせます。
建設業向けkintone活用事例と導入のポイントでは、工事管理以外の側面からも建設業向けのkintone活用がカバーされており、工事台帳と合わせて参考になります。本記事で紹介した構成は「台帳」そのものの使いやすさに寄せて設計している点が、一般的な建設業向け活用事例との違いです。まずは基本フィールドで台帳を1つ作ってみて、自社の工事管理に合わせて育てていってください。
