「あの物件、いま契約手続き中だったか、それとももう契約済みだったか」——不動産管理会社や仲介会社の現場では、こうした確認のために担当者のExcelファイルや紙の台帳を探し回る場面が日常的に発生します。物件情報は台帳、契約状況は担当者ごとのメモ、入居者からの問い合わせは口頭やメールでバラバラに管理されていると、情報を探す手間だけでなく、契約更新の見落としや二重対応といったトラブルのリスクも高まります。ここでは、物件・契約・入居者対応をkintoneで一元管理する具体的なアプリ構成例と、実際に運用している不動産会社の事例を紹介します。

1. 不動産管理業務でExcel・紙管理が限界を迎える理由

物件・契約・入居者の情報をExcelや紙で管理していると、担当者ごとにファイルが分かれ、最新版がどれか分からなくなりがちです。同じ物件の情報を「物件台帳」「契約書ファイル」「対応履歴メモ」の3か所に別々に記録していると、1か所を更新しても他が古いまま残り、担当者の異動や休みのタイミングで情報の引き継ぎ漏れが起きやすくなります。

特に契約更新期限のような「日付が来たら必ず対応が必要な情報」は、担当者の記憶やカレンダーの手動チェックに頼っていると見落としのリスクが避けられません。物件数・契約件数が増えるほど、この管理コストは比例して重くなっていきます。

物件情報が台帳・契約書・担当者メモの3か所に分散し、食い違いが生まれるイメージ

2. 不動産管理でkintoneが選ばれる理由

こうした課題に対して、実際にkintoneへ移行した不動産会社の事例が公式サイトで複数紹介されています。

千葉県八千代市の川島不動産では、Windows XP専用機で動くAccess製の日報システムと、後から編集できないGoogleフォーム+スプレッドシートによる顧客管理をkintoneに置き換えました。日報アプリは1時間、来店カードアプリは半日で完成し、特別な指導をしなくても現場ですぐに運用が始まったといいます(kintone公式事例:川島不動産)。

京都で賃貸7,000室とマンスリーマンション300室を管理するフラットエージェンシーでは、単一のExcelファイルで行っていた予約管理から、kintoneとExcelのガントチャート連携によるリアルタイムの空室確認、タブレットでの写真付きメンテナンス報告へ移行。フォームクリエイターとの連携でFAXなし・海外からの入居申込受付も可能になり、「受付業務がスマートになりスタッフ2人分の業務量を圧縮できた」「退去後から再貸出までの期間短縮で稼働率が向上した」と報告されています(kintone公式事例:フラットエージェンシー)。

小田急沿線20店舗で分譲・賃貸・仲介を手がける小田急不動産では、委託先に依存したCRM運用と、営業日報を別システムへ二重入力する非効率が課題でした。顧客・物件・案件の情報を一元管理し、駅情報や郵便番号などのマスタ管理を含む30を超えるアプリを運用することで、二重入力が解消し、レコード連携によってアプリ間の情報が常に最新の状態に保たれるようになったといいます(kintone公式事例:小田急不動産)。

料金面でも、スタンダードコースは1ユーザーあたり月額1,800円(税抜・月額契約時、最低10ユーザーから)とシンプルな体系です(kintone公式 料金ページ)。複数店舗のスタッフ全員に共有する運用でも、初期投資を抑えて始めやすい価格帯といえます。同じ業界で実際に運用している事例は、無料相談でより詳しくご紹介することもできます。

物件マスタ・契約管理・入居者対応の3アプリが情報でつながるイメージ

ここから、この3つのアプリをどう組み立てるか、具体的な構成例を見ていきます。

3. 物件管理アプリの基本フィールド構成例

ここまで紹介したのは、実際にkintoneへ移行した企業の事例です。これから示す物件管理・契約管理アプリのフィールド構成は、特定の企業の実装をそのまま再現したものではなく、不動産管理業務で共通して登場する項目をもとにした設計例です。物件数や契約フロー、必要な項目は会社によって異なるため、自社の運用に合わせて過不足を調整する前提で読み進めてください。

物件管理アプリは、物件そのものの基本情報と賃貸条件をまとめる「マスタ」の役割を持たせます。フィールド構成の一例は次の通りです。

物件管理アプリの一覧画面で、物件名・所在地・賃料などの項目に加え、入居状況が入居中や空室など色分けされた選択肢で表示されている。

「入居状況」を選択肢フィールドにしておくと、一覧画面で状態ごとに色分け表示され、空室になっている物件がひと目で分かるようになります。「年間賃料見込」のような単純な計算フィールドを1つ入れておくだけでも、収支の見通しを個別に電卓で計算する手間が省けます。

物件管理アプリと契約管理アプリを紐づける方法としては、ルックアップと関連レコード一覧の2つの仕組みがあります。ルックアップは、参照先アプリのレコード一覧から選ぶ、またはキーワードで絞り込んで一致するレコードを取得する機能で、取得したデータには自動でリンクが生成されます(kintoneヘルプ:ルックアップの使い方)。一方、関連レコード一覧は参照先アプリを指定し、フィールドの対応付けや絞り込み条件を設定することで、他アプリのレコードを複数まとめて一覧表示できる機能です(kintoneヘルプ:関連レコード一覧フィールドの仕様)。物件の詳細画面を開けば、その物件に紐づく契約履歴が一覧で確認できる、という使い方に向いています。

契約管理アプリのフィールド構成例

区分フィールド名種類・選択肢
契約基本物件名文字列
契約基本契約者名文字列
契約基本契約者連絡先文字列
契約基本契約開始日日付
契約基本契約終了日日付
契約条件月額賃料数値
契約条件更新方法選択:自動更新,再契約,更新なし
契約条件契約ステータス選択:空室確認中,申込受付,契約手続き中,契約済み

なお、ルックアップで取得した情報は選択した時点のデータであり、参照元を後から更新した場合に自動で反映されるかどうかは、公式ヘルプの本文だけでは明確に確認できませんでした。実際の運用に組み込む際は、更新頻度の高い項目については関連レコード一覧で常に最新のレコードを参照する構成にするなど、自社の運用フローに合わせて確認しておくと安心です。

4. 契約状況・更新期限のリマインド設定

契約の進捗は、プロセス管理機能を使って管理します。初期設定のまま「未処理→処理中→完了」の3段階で運用を始めれば、いま対応中の契約がどの段階で止まっているかを一覧で追えるようになります。

契約管理アプリのプロセス管理設定画面で、ステータスの初期値「未処理→処理中→完了」とフロー図、アクション名・実行後ステータスの設定欄が表示されている。

物件ごとのもっと細かい状態(空室確認中・申込受付・契約手続き中・契約済みなど)は、さきほどのフィールド構成で用意した「契約ステータス」の選択肢フィールドで管理する、という役割分担にすると、プロセス管理の設定はシンプルに保ったまま、現場が実際に使う言葉での状態管理も両立できます。

契約更新期限のような「日付が来たら知らせてほしい情報」には、条件通知の中の「リマインダーの条件通知」が使えます。条件にできるのは日付または日時のフィールドのみで、条件を満たすと通知が1回だけ送信される仕組みです。下の画面は契約開始日を基準にした設定例ですが、実際に更新リマインドとして使う場合は、契約終了日のような更新期限に近いフィールドを条件に選べば、同じ手順でそのまま設定できます。

リマインダーの条件通知設定画面で、契約開始日を基準とした通知タイミング・通知の条件・通知先の設定欄が表示され、通知先未指定の警告が出ている。

設定した日付を過ぎたあとに自動で繰り返し通知されることはないため、更新のたびに日付を再設定するか、契約更新のサイクルが複数回あることを見込んで、テーブル機能で複数の日付フィールドを用意しておく必要があります(kintoneヘルプ:リマインダー条件通知の繰り返し設定)。

なお、契約ステータスを計算式の条件として使い、更新方法に応じて自動判定する、といった仕組みを組みたくなるかもしれませんが、プロセス管理のステータスを計算フィールドの条件式で直接参照できるかどうかは、公式ヘルプで明確に確認できていません。自動判定ロジックを組み込みたい場合は、事前に自社の環境で実機検証しておくことをおすすめします。

5. 入居者対応・問い合わせ履歴の一元管理

入居者からの問い合わせや対応履歴は、物件管理アプリのレコードにコメント機能を使って残していく方法が手軽です。レコードのコメント欄には、担当者間のやり取りや対応記録を時系列で残せるため、電話やメールで個別に管理していた対応履歴を、その物件のレコードを開くだけで確認できるようになります。

物件管理レコードの詳細画面で、基本情報・賃貸条件に加え、コメント欄に入居申込受付や敷礼金入金確認などの対応履歴が時系列で残っている。

担当者を「ユーザー」フィールドで指定しておけば、誰が対応中の問い合わせかも同時に管理できます。物件・契約・対応履歴が別々のファイルに分散していた状態から、レコードを起点に情報をたどれる状態に変わることで、「担当者に聞かないと分からない」状況を減らせます。

6. 導入時に注意すべきポイント(外部システム連携等)

物件の所在地を地図上に表示したい、というニーズもよくありますが、kintoneの標準機能には地図・位置情報を表示するフィールドは含まれていません。地図表示を行うには、公式ソリューションサイトに掲載されている専用の地図表示プラグインを別途導入する必要があります(kintone公式ソリューションサイト:地図表示プラグイン)。会計ソフトや入退去管理システムなど、既存の外部システムと連携させたい場合も同様に、標準機能の範囲でどこまで対応できるかを事前に整理しておくことが必要です。

入退去管理システム・会計ソフトとkintoneの間をデータが行き来するイメージ

kintone公式のガイドでも、いくつかの注意点が示されています。既存の紙・Excel業務プロセスをそのまま踏襲するためのカスタマイズ開発は、開発工数・期間・保守コストを増大させやすいとされ、業務側をkintone標準の考え方に合わせて設計し直すことが推奨されています(SIGNPOST 1-06)。要件を検討する際も、「カスタマイズ開発で実現できることか」ではなく「カスタマイズ開発でしか実現できないことか」を確認すべきだとされ(SIGNPOST 2-14)、kintoneが推奨しない実装方法に依存した大幅なUI/UXカスタマイズは、アップデートの影響で想定通り動作しなくなる可能性があるとも警告されています(SIGNPOST 3-29)。

運用開始後のトラブル対応も見落とされがちなポイントです。公式ガイドでは「kintoneが動かない」原因を、kintone自体の障害、カスタマイズJSの問題、連携先の外部システム障害、ユーザー端末・ブラウザの問題の4種類に分類しており、事前にどの窓口に問い合わせるかの対応フローを決めていないと、対応時間が膨れやすいと指摘されています(SIGNPOST 5-39)。

今回紹介した事例に共通するのは、既存の紙・Excelの運用フローをそのままシステム化するのではなく、kintoneの標準機能に合わせて業務のやり方自体を整理し直している点です。不動産仲介や賃貸管理の現場を理解したうえで、どの業務をどう標準機能に落とし込むかを一緒に検討できる相手を選ぶことが、導入後に現場で使われ続けるシステムになるかどうかを左右します。

7. まとめ

物件・契約・入居者対応をExcelや紙で分散管理していると、情報を探す手間や更新漏れのリスクが積み重なっていきます。物件管理アプリと契約管理アプリを分け、ルックアップや関連レコード一覧で紐づけ、契約対応の進捗はプロセス管理と契約ステータスの選択肢で二段構えに管理し、更新期限はリマインダーの条件通知で管理する——この基本構成があれば、複数の情報を1か所から追える状態を作れます。

kintone公式の導入失敗パターンとして、目的が曖昧なまま導入する、100点を目指してリリースを遅らせる、担当者が一人しかいない、現場の「使いづらい」を放置する、の4点が挙げられています(kintoneの歩き方)。まずは物件管理アプリ1つから75点の完成度でスタートし、運用しながら契約管理・入居者対応へ広げていくくらいの進め方が、無理なく定着させるコツといえそうです。